三重県 安全運転・基礎知識

安全装備の落とし穴と、現代の「おごり運転」―ペルツマン効果から考える

「慣れは油断を生む」「油断大敵」。昔から伝わる言葉ですが、バイクやクルマを運転する私たちにとって、今も重みのある言葉です。

ライディング技術が身につき、車両の性能や装備が充実するほど、運転に余裕が生まれます。その余裕は大切です。しかし一方で、「このくらいなら大丈夫」「装備が助けてくれる」という気持ちに変わった瞬間、一般道路では思わぬ落とし穴になることがあります。

安全になった分だけ、人は大胆になるのか

交通安全や経済学の研究では、安全対策によって感じるリスクが下がると行動が変化し、安全効果の一部を相殺する可能性があるという「ペルツマン効果」やリスク補償の考え方が議論されています。Sam Peltzmanの1975年の論文は、自動車安全規制に対する運転者の行動変化を分析した代表的な研究です。The Effects of Automobile Safety Regulation

ただし、これは「安全装備を付けると人は必ず危険な運転をする」という法則ではありません。後続研究では相殺行動の大きさについて結果が分かれており、安全対策そのものの効果が確認されている研究もあります。この記事では、ペルツマン効果を安全装備の有効性を否定する根拠ではなく、装備への安心感が自分の判断を過信させていないかを振り返るための一つの視点として扱います。

  • クルマにはABSやトラクションコントロールなどの電子制御が備わる
  • バイク用ヘルメットやプロテクターの性能が高くなる
  • 車体やタイヤの性能が向上し、以前より安定して走れる

こうした進化は、事故の回避や被害の軽減に役立つ大切なものです。ただし、機械や装備が守ってくれる範囲には限界があります。安全装備が充実するほど、最後に残る課題は、それを扱う人間の判断や操作になるのではないでしょうか。

四日市の道路で気になる二つの運転行動

ここからは、私が四日市周辺を走る中で気になっている運転行動を挙げます。統計的な裏付けを示すものではなく、あくまで日常の運転や指導を通じた個人的な実感です。

曲がる直前に出されるウインカー

周囲へ進路変更や右左折の意思を伝えるためのウインカーが、曲がる直前、あるいはハンドルを切り始めてから出される場面を見かけます。

本人には「今まで事故を起こしていないから大丈夫」という感覚があるのかもしれません。しかし、後続車や隣を走るバイクにとっては、相手の動きを予測する時間が奪われます。ウインカーは自分が曲がるための儀式ではなく、周囲に準備する時間を渡すための合図です。

左折前にいったん右へ振る動き

左折の直前に車体を右へ振ってから曲がる、いわゆる「あおりハンドル」のような動きも気になります。大型車など、車体の大きさや道路条件から必要になる操作とは分けて考える必要がありますが、一般的な乗用車で習慣的に行えば、右側を走る車両を驚かせたり、左側の二輪車や自転車を巻き込む危険を増やしたりする可能性があります。

この動きも、過去に問題が起きなかった経験が積み重なるほど、「これで大丈夫」という確信に変わりやすいものです。しかし、99回うまくいった操作でも、次の1回に相手の位置や速度、路面状況が重なれば、取り返しのつかない結果につながることがあります。

「今まで大丈夫だった」は安全の証明ではない

運転で怖いのは、危険な操作が毎回事故になるわけではないことです。何度も無事に通過できるため、操作そのものが正しかったように感じてしまいます。

けれども、無事だった理由は、自分の技量だけとは限りません。周囲が減速してくれた、相手が避けてくれた、たまたま死角に車両がいなかった、路面が乾いていた。そうした条件に助けられていた可能性もあります。

成功体験を積み上げることは大切ですが、「事故にならなかった」という結果だけで操作を正当化しないことも、同じくらい重要です。

安全装備にはそれぞれ役割がある。判断の主体は運転者

ヘルメットやプロテクターは、転倒・衝突時の被害を軽減するための装備です。一方、ABSなどの車両側安全技術には、制動時の車輪ロックを抑えるなど、事故回避を支援する役割があります。役割は同じではありませんが、どの装備も無理な操作をしてよい理由にはなりません。

事故を手前で防ぐのは、速度を選ぶこと、周囲を観察すること、早めに意思表示すること、車間距離を保つこと、そして自分の操作を過信しないことです。装備が進化した今だからこそ、ハンドルを握る前に一度、自分の中に「装備があるから大丈夫」という気持ちが生まれていないかを確かめたいものです。

油断大敵。

MSSFでは、単に操作方法を覚えるだけではなく、一般道路で状況を読み、必要な速度と車間距離を選び、確実に車両をコントロールするための実践的な技術を大切にしています。

操作と判断を見直したい方へ

慣れや過信に気づくには、発進・停止、低速走行、ブレーキ、視線などを客観的に確認することが役立ちます。経験者にも基礎確認が必要な理由は、基礎練習は初心者だけのものではないで詳しく紹介しています。実技内容はスクールカリキュラム、初参加の条件や準備はスクールが初めての方へをご確認ください。

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